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林業ビジネス経営力強化研修を開催しました

11月19日~21日、林業ビジネス経営力強化研修を開催しました。

林業もビジネスの一つである以上、「会計」の知識は不可欠です。個人であれ事業体であれ、誰かがお金の管理をしなければなりません。今回は、「林業会計」というテーマを切り口に、林業事業体を運営する上でのお金の流れ、さらにそれを実践的に理解するうえで林地集約化もセットで学ぶ機会を作りました。

講師は、鹿児島総合研究所の新永智士さんと、鹿児島大学助教授の牧野耕輔さんです。お二人はセットで研修を開催することも多く、奈良県フォレスターアカデミーや岐阜県森林文化アカデミー、愛媛大学リカレントプログラムなどでも同様の内容で講義を実施されています。

林業会計 概論

新永さんの担当する林業会計のパートから始まりました。新永さんは、鹿児島総合研究所の代表取締役で、全国で林業コンサルタント、林業事業体会計の講師として活躍されています。

これまでも和歌山県で2500haの社有林を持つ林業会社や鹿児島県で素材生産と製材事業を展開する林業事業体での事業に携わってきた経験をお持ちで、現場状況に即した講義が行われました。

講師の新永智士さん

概論の部分では、特に担い手不足の中での人材獲得という課題に対して、建設業などに見られる人件費の高騰と労働環境の改善の状況から、林業の置かれている状況はさらに厳しくなることが指摘されました。そのため求められる能力として、林業技術に加えて、成果を出すために全体最適を目指すマネジメントができる「組織経営力」と森づくりの方向性を示せるリーダーシップとしての「事業経営力」が重要であると強調されました。

会社運営シミュレーション

今回の研修の特徴は、グループごとに林業会社を作って、会社運営のシミュレーションを行うという点です。各グループは以下のプロセスを実践しました。

まず、採用する生産システム(なんの機械を使って木材生産をするか)を決定します。

生産システムには複数の組み合わせがあるため、小規模パターンからCTL(cut-to-length)と呼ばれる海外で行われる高生産性のパターンまで比較検討していきます。ここで大事な概念としてのボトルネックについても詳しく解説がありました。

林業カードを使いながら、自分たちの会社がどういった生産システムを採用するかを決めるた後は、そのシステムで行える素材生産量、それを動かすための人数を決定します。その上で、会社を運営するための経費を計算していきます。

経費には様々な要素が含まれます。

購入した機械の減価償却費、従業員の給与と社会保険料、事務職員の人件費や事務所などの固定費、機械購入時の借入金利息などです。

これらの経費と素材生産量を並べることで、生産コスト(1㎥の木材を生産するのにいくらかかるか)が見えてきます。また、事業管理料(率)についても検討します。いわゆる販管費というものです。

自社がいくらぐらいの販管費がかかっているかを算出しますが、毎回この生産コストで仕事ができるわけではなく、特に販管費率は相手方から提示されることがほとんどです。一般的な販管費と自社の生産コストをを踏まえて、自分たちの生産コストの値決めを行います。

ここで強調されたのは「コストと値段は違う」という点です。

コストは経費を上記のような要素を積み上げで出てくるものですが、実際の受注価格は市場状況などを考慮して戦略的に決める必要があります。これらの計算から、粗利(率)や目標の素材生産量、そのために必要な事業地面積が見えてきます。

ここまでをすべて電卓でひとつひとつ確認しながら計算をしてもらいました。 エクセルなどでやってしまえば早いものですが、やはり構造を理解するうえでもこの手計算は重要な過程となりました。

林地集約化シミュレーション

次に牧野さんによる集約化パートが行われました。

牧野耕輔さんは、愛媛県の久万広域森林組合で集約化業務に携わっていた経験がおありで、その際の経験も踏まえた上で、集約化業務とはなんたるかを解説していただきました。

講師の牧野耕輔さん

集約化業務を円滑に進めていく上での情報の整理、情報の種類やその取得方法、プラン書の作成、所有者へのアプローチ方法など、より具体的に集約化作業の内容を知ることができました。

その後、集約化業務の実践的なシミュレーションを行いました。実習は以下の手順で進められました。

まず、図面上で施業候補地を検討し、プラン書を作成します。研修用の図面をもとに施業候補地を検討し、林地情報と所有者情報を突き合わせ、施業費全体の設計費用と各所有者への施業提案書を作成します。

次に所有者への営業活動に入ります。初回は練習としてサイコロを使用した営業シミュレーションを行い、訪問、電話、郵送の3つのサイコロを振り、承認の判定を行います。承認された現場を踏まえて施業地を確定させていきます。

その後、確保できた施業地での収支計算を行います。

木材価格の変動など条件カードによる状況変化への対応も求められ、赤字の場合は原因分析と改善策の検討を行います。最後に四半期決算を実施し、損益計算書と貸借対照表の作成を通じて会社の経営状況の確認と分析を行います。

収支計算を見ていく上で、重要な点として誰かのコストは誰かの収入であるということが強調されました。

林業事業体としては、収入を得るために自分たちの作業システムに見合うだけの現場量が必要です。逆に過剰すぎても現場班の大きな負担になります。

林業事業体としては利益を最大化する必要がありますが、そこが大きくなると、所有者に還元する金額は少なくなってしまいます。集約化を進める森林組合の立場で言えば、集約化面積は大きいほうがいいですが、所有者還元が赤字になる場合は、森林組合が負担しなければなりません。

3者がどういった金額設定であれば飲める条件になるのかを数字を変更しながら、検討していきます。

班によっては、そもそもの作業システム、導入する機会や人員体制を再検討するところもありました。こうして様々な条件を試すことができるのも、シミュレーションの良いところです。

以上のような流れで、第1四半期のシミュレーションが終了しました。

続いて第2四半期のシミュレーションです。第1期と同じように別の施業候補地を探して、林地・所有者情報の整理、プラン書作成、営業を行っていきますが、第2期はサイコロでなく、直接所有者に交渉します。

別の班の方が所有者として対応し、訪問、電話、郵送かを選択して、交渉が行われます。

交渉結果には、不在や不通、門前払いなどもあり、交渉条件の良し悪しだけで承認に繋がらないようにもなっていて、リアル感がありました。

また、営業も無限にできるわけではなくポイント制になっています。営業をすればするほどコストがかかるので、集約化には欠かせないエリア(道から近いや広い面積を持っている)の所有者から営業をかけていくなど、その手順にも戦略が必要とされました。

このような班の中や班同士のやり取りをワイワイと進めていき、集約化の段取りとその結果の施業実施、決算を行います。第2四半期の決算です。

第1期の結果を踏まえて、見直しが行われ改善した班もありましたが、やはり集約化の結果が思うようにいかなかった班もあります。 集約化のプロセスやそもそもの収支構造のさらなる見直しに向けて議論が行われました。

振り返り・感想

3日目午後いっぱいを使って振り返りを行いました。各班が経験を共有し、講師からのフィードバックを受けます。

じっくり時間を取って、各班、各人で感じたことについて発言してもらい、講師それぞれからコメントもいただいたことで、3日間の内容をより深める時間になったように思います。

今回は、林業事業体の会計と事業地確保のための集約化作業をシミュレーションを通して経験していただきました。お金と現場をいったり来たりしながら、その内容についてかなり深く感じてもらったように思います。

参加者の多くは、こうした業務に実際に関わるわけではないにしろ、自分たちが林業をしていくための背景にある業務や、個人であれ経営に関する基礎について学ぶことができたのではないかと思います。

講義後のアンケートいただいた感想を一部紹介します。

「素材生産会社の立ち上げからプランニングまで、山側の利害関係者のそれぞれの立場や思惑が垣間見ることができ、とても興味深かった。」

「今までやったシュミレーションの中で実務にそっていてゲーム性もあり楽しかった」

「林業の会計は、不確定要素が大きいことも改めて知る事ができ、今後の活動に大変為になる考えを知る事が出来ました。」

「持続可能な林業を経営していくうえで知っておくべき考え方を体系立ててご説明いただき、大変勉強になりました。 経営に関する知識の浅い身であっても取り組みやすいかたちで演習が構成されており、とても有難かったです。 理解できていなかった部分を把握できたという意味でも一歩前進できたと思います。」

「林業に限らず会計というのは面倒で難しいところがあるけれど、今回はカードゲームを通じて分かり易く説明してくれた。」

「施業する際、考慮しないといけない請求の具体的項目が知れて良かった!あと、林業も営業のひとつだと言うこと!」

「林業にて大規模に始める事が、いかに難しい事なのか勉強になった。しかし、小規模でも不確定要素も大きい事の経営の難しさを改めて知った。また、今後、材価が安定的に高値で買い取れるシステムづくりをより一層考えて行きたいと思う。」

「グループでシュミレーションすることにより、集約化の基礎知識や流れを学ぶことができて、貴重な経験になりました。 また、機械費や人件費の計上のやり方、粗利益や目標売上高の算出など、お金の流れに関しても学ぶことができて、良い勉強になりました。」

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