森林施業研究会北海道合宿に参加しました
10/28,29と森林施業研究会が実施する北海道合宿に参加してきました。
森林施業研究会とは、「森林施業および、そのための技術に関心を持つ技術者、研究者相互の連携を深め、森林施業研究を活性化し、ひいては、適切な森林管理の普及に貢献すること」(研究会規約より)を目的として1996年に設立された任意団体です。
森林施業研究会HP
https://f-segyo.main.jp/baser
研究者や現場作業者、行政の林業技術者が集まり森林施業について意見交換をする場です。毎年全国から視察先を選定し合宿を行っており、今年は北海道での開催となりました。
今回の合宿のテーマは「保持林業の大規模実証実験の視察」でしたので、今回はその点で見てきたことを少しご紹介します。
保持林業とは
保持林業とは、「主伐時に一部の樹木を残して複雑な森林構造を維持する伐採により、皆伐では失われてしまう老齢木、大径木等を確保し、多様な生物の生息地としての機能等を維持する森林管理」です(https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/refresh/abstract/abstract.html)。
カナダやスウェーデンをはじめ、欧州各国では生物多様性に配慮した森林施業として様々な実践が行われています。たとえば皆伐を行った際に、枯れ木は伐らずに残したりといった取り組みです。
しかし、こうした取組みに関する研究成果を拾っていくと欧州地域に限られていて、日本を含むアジア圏では研究成果としては見られないようです。
保持林業の前提として、木材生産を継続的に行う経済林で実施するということがあります。
基本的に人工林において、木をいくらか残して生物多様性の維持・低減抑制を行うというものになります。
そのため、作業としては皆伐(木材を面的に伐採して収穫する作業)を行い、その中にある樹木や枯死木を伐らずに置いておき、植栽によって人工林として更新する、という内容がざっくりとした作業になります。
ただ、そこでの残す木や残す本数、残し方(1本1本独立させるか、まとめて残すか)が最も効果的か、その違いによってどういった変化があるか、日本に合った保持の仕方はどういったものかという点については、海外のやり方をマネをするわけにはいかず、試して調査するしかありません。
■画像が入ります
柿澤宏昭・山浦悠一・栗山浩一編「保持林業 木を伐りながら生き物を守る」(築地書館 2018年)
https://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1570-2.html
北海道大規模実証実験について
こうした背景のもと、このような施業が日本でも適用できるのか、どういったやり方が効果的かを検証するため、北海道有林を実験地として、森林総合研究所や北海道総合研究所などが加わり、大規模実証実験を行うことにしました。議論が始まったのが2011年、実験がはじまったのが2013年のことです。
この実験を行うにあたり、複数の保持条件を比較する必要があることから、4つの保持パターンと4つの比較対象区域を設定しています。
- 通常の皆伐
- 単木少量保持(広葉樹を10本/ha残す)
- 単木中量保持(広葉樹を50本/ha残す)
- 単木大量保持(広葉樹を100本/ha残す)
- 群状保持(皆伐地の中に60m×60mの伐らないエリアを残す)
- 小面積皆伐
- 広葉樹天然林
- 非伐採人工林(人工林で伐採しない区域)
■図が入ります
https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/refresh/experiment/experiment.html より
実際に保持を行った場所と、そうでない場所を比較することで、その効果をより明確に示せるのではないかという実験設定です。
また、調査項目も生物多様性(鳥や昆虫、植物)だけでなく、水や菌、さらには生産性にまで広げ、より広い視点でそれらの方法の分析を行っています。
今回は群状保持、少量保持、中量保持、大量保持の現場をひとつずつ見て回ることができました。
細かい研究成果についてはここでは言及しませんが、特に鳥類については、少量でも広葉樹を残すことで、皆伐地内でも鳥類の減少が抑えられたという調査結果が見られました。
また、残す木として、樹洞が作られやすい性質の木、大径木を残したほうが効果が高いことが見られました。実験区ではシナノキという木の巨木が残されていましたが、シナノキは幹が折れても腐らず生き残りやすい性質があり、折れた部分が空洞になって動物の棲み処となります。こうしたものは「マイクロハビタット」と呼ばれ、生物多様性に大きく貢献します。
また、保持した樹木にクマゲラと呼ばれるキツツキの仲間が巣穴を作っている様子を見ることもできました。伐採して木材生産を行っても、広葉樹を保持したことでこうした種類の生息地を維持できたことになります。
鳥類以外の、昆虫や菌類はまた異なる反応をしたこともあったので、維持したい種に応じて保持の方法を変えたり、各地点で保持の仕方を変えたりすることで広域的に生物多様性を維持することができるかもしれません。このあたりはさらなら研究成果が待たれるところです。
もうひとつ重要な点として、経済性、木材生産の効率性の観点も重要です。
保持林業を行う場所は基本的に木材生産を行う人工林である以上、広葉樹を残すことで生産コストが上がるのはあまり歓迎されるものではありませんし、コストが上がるのならそれに対する別のインセンティブを考える必要があります。
今回の実験では保持量を増やしても生産コストは大きくは高まらないという結果を得ていました。ただ、追加で質問をしてみると、今回作業した事業者は普段定性間伐も行っている事業者であるため、定性間伐に比べるとずっと楽だったという声もあったとのことです。
間伐に慣れている業者であれば適する技術を身に付けているが、皆伐を中心に行っている事業者であればどうだったかという点や、現場の作業しやすさなども踏まえていけないと思いました。今回の研究成果をもとに保持量が増えても作業コストはそれほど増えないという結果は慎重に扱う必要があると感じました。
高知・嶺北地域での応用は?
今回は、北海道で行われた保持林業の実験結果についてご紹介しました。
詳細な研究成果については数多く報告されていますし、近々それらをさらに取りまとめた成果物が出されるとの話もありました。そうした成果も参考にしながら、求める機能を発揮させるための施業方法を選択していく必要があります。
北海道でのプロジェクトの中心として動いてきた森林総合研究所の山浦悠一氏は、2023年度から四国支所に異動してきており、高知県ないし四国での保持林業の可能性についても調査・実験をされています。
生物多様性に配慮した森林施業のひとつの方法として、嶺北地域での展開も考えていきたいです。
参考資料
森林総合研究所北海道支所 「保持林業の実証実験プロジェクト」
尾崎研一ほか(2018)「木材生産と生物多様性保全に配慮した保残伐施業による森林管理―保残伐施業の概要と日本への適用―」