もりとみずフェスタ シンポジウムを開催しました
9/15(日)はもりとみずフェスタ。早明浦湖水祭をリニューアルして、マルシェや映画上映、体験ブースなどが並びました。
そのひとつの企画として、もりとみず基金が主催してシンポジウム「水はどこからやってくる?水を育てる菌と土と森」を開催しました。
基調講演
基調講演は作家の浜田久美子さんにご登壇いただきました。
シンポジウムと同タイトルの昨年出版されたご著書の内容を中心に、森と水のつながり、さらに土や菌の役割についてご講演いただきました。
浜田さんは、2000年頃から森林に関わる活動を始めましたが、森の大事さは何となくわかっていながらも、日本の森の問題である人工林の整備不足という問題は当時はよく分かっていなかったそうです。
これは多くの人もそうでないかと思い、森との接点を作っていくために、森についての本を書くようになりました。
これまでも森に関するご著書を多数出されていますが、子ども向けの本で分かりやすいものがないという問題意識があったそうです。子どもに森について関心を持ってもらうきっかけとして「水」を入り口に書けないかというのが、この本を書く動機でした。
「森を整備すれば水が豊かになる」とはよく語られる言葉ですが、具体的にどのように繋がっているかはあまり知られていません。
そこで、まず始めたのがサントリー天然水の森事業への取材です。
サントリーは地下水をくみ上げて飲料製品を作っている会社であり、地下水を守っていくために森林を整備するというプロジェクトが以前から進められていました。
その発起人である山田健さんに取材を行いました。
サントリーも、工場の流域に位置する山林を取りまとめて水のための森林整備を進めていますが、はじめは「人工林の間伐をすれば水が守れるだろう」と思っていたようです。
ただ、本当にそうなのか。人工林の間伐をする「だけで」いいのだろうか? という疑問が山田さんの中で浮かんできます。
木材生産のための間伐とは違った考え方も必要なのではないかと。
当時、森と地下水の関係について詳しくは分かっていませんでした。
そこで研究者と連携して、2つのことが分かってきました。
- 森に降った雨は、全部人間が使えるわけではなく、森も水を使っている(蒸発、樹冠遮断)ため、実際は森があることで人が使える水の量は減っている。
- 森がよく水を染み込むようにするためには林床の状態が大事である。
この2つを考慮すると、人工林を間伐して木を減らしつつ、林床の植生を豊かにしていくという方針が見えてきました。
また、水の浸透ということ突き詰めていくと、森林の土の状態について見ていく必要性が出てきました。
土は団粒構造という土の粒が大きく、それぞれの粒の間の空間が広いような土ほど水の浸み込みやすさが高まります。いわゆるフワフワな土壌です。
そうした土づくりに不可欠な存在として、土中生物がいます。
土中生物が豊かになり活発に活動できるようになると、土壌の構造が発達してきます。
土中生物を豊かにするためには、多様な落葉が供給される色々な樹種で構成された森にしていくことが有用だと分かってきました。
まとめると
水がよく浸み込む森を作りたい
↓
土の状態を良くする(団粒構造)
↓
土壌生物を活発にする
↓
多様な落葉が供給される
↓
多様な樹種で構成された森を作る
という流れになります。
サントリーではそうした森づくりを目指して取組みを進めているようです。
また、土壌を豊かにする作用として最近分かってきたこととして、菌の重要性があります。
樹木と土壌内の菌、特に菌根菌という種類の菌は根っこを通して共生しています。
菌根菌のことはまだまだ分からないことも多いようですが、樹種によって共生する菌の種類が違うこと、共生できる菌がいると樹木の成長が促進されることなど、調査はどんどん進んでいます。
今後、こうした見えない土の中の動きが段々分かってくると、水資源のための森づくりがより実践できるようになるかもしれません。
パネルディスカッション
シンポジウムの後半では、浜田さんの講演を元にパネルディスカッションが行われました。
もりとみず基金の三好一樹代表理事がモデレーターを務め、パネラーには地元林業者の鳥山太郎さん、高知大学准教授の松本明さんにご登壇いただきました。
水に関して、移住者である鳥山さんからは「これまであちこちで仕事をしてきたが、水をペットボトルで買う生活だった。嶺北は水が豊富だし、おいしい。地元の人はこうした自然の豊かさを当たり前に感じているが、意識できるようになる必要がある」とコメント。
松本さんからは森と人との距離が遠いことに懸念を抱いており、「森と人をつなぐ接点として水が有効だと感じた」と感想を述べました。さらに、「少ないときはありがたく感じるが、多すぎると災害にもつながるのでそのバランスや調整が重要だ」と利水と治水の両側面についても言及していただきました。
また、水から広がって、森の持つ公益的機能の中での脱炭素や生物多様性保全の問題についての話題にも広がりました。
ご専門でもある松本さんからは、気候変動の問題などをざっと概説していただいた上で、こうした大きな問題に対して私たちができることのひとつとして「地域の身近なものを大切に使っていくことが大事」と提案されました。どこから来たか分からないものに対してはどうしても無責任になってしまうため、身近なものをできるだけ活用することで、実感が持て、さらに人のつながりもそこから生まれるという効果があります。
鳥山さんからは、SDGsなどは裕福な国だからこそできることであり、こうした掛け声のもとで、地域が疲弊しないだろうかという危機感も表していただきました。
林業はエッセンシャルワーカーのひとつだという私論も述べていただき、林業の現状の発信と、生産者とユーザーの隔たりの解消もしていきたいという意気込みを述べていただきました。
最後のまとめとして、浜田さんからは、「次世代の人たちが自然を体験してもらう機会を作ることが重要だ」と提案がありました。日本は災害が付いて回る環境であるが、それを含めて日本の豊かな自然であり、その自然との付き合っていくために幼児期から自然を体感していくことが重要ではないかと述べられました。
それを受けて鳥山さんからも、山に親しめるような環境づくりが強調されました。森が多様なように、関わり方も多様であり、様々な形で山や森を楽しめるようにしていくことが重要だと述べられました。
最後に松本さんから、地域のものを使うということについて、若い人たちが素敵だと思うことが重要で、今それがないなら新しく作っていける、そうした若い人たちの新しい動きに対して年長者がサポートしていける役割と環境づくりをしていきたいと締めていただきました。
会場には50名ほどが参加されました。
参加者の声としては以下のようなものがありました。
「森、水の事について勉強をしたいと常々思っていたので本当に有意義な時間になりました。もっともっと人が来てくれるよう、私も草の根運動を頑張ります。これから、生物多様性や河川湿地帯環境保護、生き物の話などもっと沢山やってくれると嬉しいです!」
「とにかくたくさんの知識と活動している人達の情熱をいただきました。一緒に参加した学生さんたちも自分たちの活動の動機をもらえたと目を輝かせていました。」
「分解者や菌根菌についての理解が深まり、勉強になりました。」
「いつも見ている光景がガラリと変わってしまうような学びがありました。」
「基調講演では日本の豊かな水を享受し続けるためには森づくりが重要であること、そして森づくりは単に間伐すればよいのではなく土や菌への眼差しが重要であることをメッセージとして受け取りました。」
「嶺北の自然を考える大変良い機会でした!嶺北住民として、心から感謝しています。是非、継続してこのような機会を設けていただきたいです!」
森と水、それにとどまらない身の回りの自然の重要性を考える時間になったことがうかがえます。
引き続き財団として、町民や関係者がこうした学びができる機会を作っていきたいと思います。